田中れいかさんと考える、困難を抱える若者の現状と挑戦について(前編)
ビヨンドトゥモローでは、社会的養護施設出身でモデルの田中れいかさんと、ビヨンドトゥモローインターンの大学生4名による座談会を行いました。
児童養護施設や里親家庭に暮らしたり、ひとり親家庭に暮らしたりする若者にとって、どのような事が自身の将来やキャリアの選択肢を考える上で負担や障害となっているのかを聞きました。彼らが安心して暮らせる社会、挑戦できる環境とはどのようなものでしょうか?
座談会テーマ
「田中れいかさんと考える 困難を経験した若者の挑戦に必要なこと」
参加者紹介
田中れいかさん
親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間東京都世⽥⾕区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期⼤学へ進学し保育⼠資格を取得。
その後、モデルの道に。ミス ユニバース2018茨城県⼤会準グランプリ・特別賞受賞。モデル業のかたわら、⾃らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の⼦どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。
2020年4⽉社会的養護専⾨情報サイト「たすけあい」を創設。同年12⽉より、児童養護施設や⾥親家庭から進学する⼦たちの受験費⽤をサポートする団体、⼀般社団法⼈ゆめさぽ代表理事に就任。著書に『児童養護施設という私のおうち(旬報社)』がある。
インターン生Oさん
中学3年生の時から里親家庭で暮らす。高校3年時にビヨンドトゥモローに参加。大学では法学を学び、将来は小学校の教師になりたいと思っている。虐待や貧困問題など、教師になった際、児童について行政などと話す際に法の知識が必要になるので、教育現場で法律の知識を活かしたい。
インターン生Kさん
父親の暴力で母と離婚。突然の引越しを余技なくされた。父が公務員ということもあり、暴力や離婚に対して社会に相談できない気持ちを持っていた。高校1年時にビヨンドトゥモローの単発プログラムに参加。将来は小学校教員として、自分と同じような環境の児童に寄り添える人になりたい。
インターン生Yさん
大学1年時ビヨンドトゥモローに参加。ひとり親家庭だったが再婚後、義父に暴力を受けるようになり、中学生の時に母、弟、妹と夜逃げして暴力から逃れた。経済的に苦しく大学進学を悩んでいたが、給付型奨学金を受けることができ、大学進学が果たせた。小学校の教員を目指している。
インターン生Mさん
0歳から児童養護施設に、4歳からは里親家庭に暮らす。芸術学部在籍で将来は舞台俳優になるのが夢。高校生でエンデバー・プログラムを経験したことで、ビヨンドトゥモローが自分にとって変われる場所であると気づいた。また、様々な人との出会いや経験、視野の広がりが、役者としての将来の足しになると思い、インターンとして居場所作りに励んでいる。
田中さん著作「児童養護施設という私のおうち」について考える
ビヨンドトゥモロー:まず、れいかさんがこの書籍を書こうと思われたきっかけを教えてください。
れいかさん:この本を出したのは2021年。モデルとして活動していて、児童養護施設の生活は意外に知られていないと感じていました。習い事ができるとか、お小遣いのこと、招待行事が多いなど、多くの人に知って欲しいことを書きました。児童養護施設関連の書籍には、分かりやすい本があまりないように感じていて、「間口を広げる本を作りたい、カタチにしたい」と感じていました。
ビヨンドトゥモロー:書籍を読んでインターン生のみなさんはどう思いましたか?
Mさん:4歳まで児童養護施設にいたので、懐かしい気持ちになりました。里親とケンカした時に「わかってもらえない」と思って自分の言いたいことを諦めてしまうところが、れいかさんの児童養護施設の職員さんに対して持った感情と同じで、共感しました。また、私も友人の保護者に気を遣われ、腫物扱いのような感じがしたことがあったり、地域によって「社会的養護」を全く知らない人がいると感じていました。里親性を使っていると、担任が変わる度に説明したり、学校の書類対応で事務の方が対応に困っていたり…。
Yさん:ビヨンドトゥモローに参加して、児童養護施設のことを知った気になっていましたが、書籍を読んで新たに知ることも多かったです。自分の境遇をあまり周囲に話したくない気持ち、父に3年ぶりに会った時の気持ちなど、理解できる部分が多く、特に、親を完全に悪にしたくない気持ちなど、とても共感しました。
Kさん:教職が学べる大学にいますが、カリキュラムで社会的養護や虐待、貧困などのような課題を学ぶ機会がないと感じていました。教員になったら現実にそういう子に出会うと思うので、れいかさんの書籍を教員を目指す人に読んでもらいたいと思いました。また、児童養護施設にいる子は兄弟間で離ればなれに措置されるなど、兄弟間の想いが薄くなってしまう気がしました。両親との関係がうまくいかないからこそ、兄弟間の関係を大切にできるよう見直せていけたらと思いました。
挑戦しづらい環境について
ビヨンドトゥモロー:ビヨンドトゥモローでは、逆境を持ちながらも前向きに将来を切り拓こうとする若者を応援していますが、皆さんにとって挑戦を阻むのはなんでしょうか?課題感を教えてください。
Oさん:小学校、中学校は父親から暴力を受けていた関係で普通の生活を送れませんでした。高校ではそれを取り返したいと思っていたのですが、書籍にあるように児童相談所の方から「自立のために100万円を在学中に貯めよう」と言われました。私は、部活、生徒会、ホームルーム委員など全部やりたいと訴えてスマホも持たずに頑張りました。どうしても諦めたのは部活で、弓道部に所属していましたが1,2年はコロナで大会が中止となり、3年で自分の実力を試したかったのですが、貯金が20万しかありませんでした。大会直前に部活を引退せざるを得なかったのが、とても悔しかったです。その後バイトを週7でこなし、5か月で50万円貯めましたが、虚無感がありました。大学進学後に振り返ると、給付型奨学金などももらえたため、お金は十分足りていました。支援を受けたNPOの職員の方の話は、児童相談所の職員さんから聞いていた話と全然違ったため、正しい奨学金の情報を高校生の時に知っていれば、部活も思いっきりできたのかと残念に思いました。
Yさん:僕もお金はやはり隔たりで、大学受験に向けて壁だと感じていました。
高校生で情報も持っていなかった時期なので、その時の絶望感が酷かったです。支援があるのは前提として、情報を持っていることは大事だと思います。
Mさん:私の場合、奨学金をもらえたので、お金はそこまで問題ではなかった。私はむしろ「家族」の方。「家族」というものが妄想でしかありませんでした。「新しい家族が欲しい」と望んで今の里親家庭にくることができました。その点でサポートしてくれた職員さんには感謝しています。
例えば、1/2成人式、名前のルーツを学校で話す時に居心地が悪かったです。自分のルーツを知りたいとずっと言っていましたが、知ったのが17歳の時で、もう少し早く知りたかったなと。自分の意思に反して職員さんが母に手紙を書かせようとしてくるのも苦しかったです。
Kさん:挑戦できた時は、母や友人の応援があったと思います。無料塾を立ち上げたいと思い、高校から活動しているが、その話をした友人が応援してくれた。また、自分がその構想を言葉にすることで、行政や民間企業など多くの人との縁を作れました。
夢を諦めたのは、進学についてです。母が難病指定で生活も苦しく、大学進学できると思っていませんでした。結局近くの大学に給付型奨学金を利用して進学できましたが、今考えると給付型奨学金で第一志望の別の地域での大学進学も果たせていたはずでした。
ビヨンドトゥモロー:
給付型奨学金は確かに進学のために必要な重要な支援ですが、給付型奨学金に関する最新の情報が得づらい、奨学金受給が進学前に保障されないことなどが進学に対する不安や進学先の選定に影響するようですね。
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