公益財団法人教育支援グローバル基金|ビヨンドトゥモロー

児童養護施設とは?施設で生活する子どもの現状と支援の方法!

児童養護施設は、保護者のいない児童や虐待されている児童など、社会的な養護が必要な児童が生活する場です。2019年時点で全国に605カ所あり、約2万5千人の子どもたちが生活しています。また、児童養護施設への入所理由の65%は虐待によるものです。さらに、児童養護施設で生活している児童は経済的な理由から大学進学率が低く、退所後の自立にも難しさを抱えており、児童養護施設で暮らす子どもは様々な支援を必要としています。

児童養護施設とは?

児童養護施設の目的

児童養護施設は、父母が死亡、行方不明になっている児童・父母などから虐待されている児童・父母が養育を放棄している児童を対象に、養護を行い、退所後も自立のための援助を行うことが目的の施設です。

児童養護施設は、保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。以下この条において同じ。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする。

(引用元:児童福祉法第四十一条|電子政府の総合窓口e-Gov

これは、児童福祉法第一条の、全ての児童が適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されることなどの権利を有するという考えに基づいています。また、国及び地方公共団体には、児童を家庭において養育することが困難である場合や適切でない場合は、必要な措置を講じる責務があります。

参考
児童福祉法|電子政府の総合窓口e-Gov

児童養護施設で働く職員

児童養護施設では、主に下記のような専門職員が働いています。

  • 児童指導員、保育士:保護者に代わって子どもの養育を担う
  • 嘱託医、看護師:子どもの健康をサポート
  • 栄養士:子どもの栄養や食生活をサポート
  • 個別対応職員:虐待を受けた子どもを個別にサポート
  • 心理療法担当職員:虐待を受けた子どもを心理面からサポート
  • 家庭支援専門相談員:親子関係の再構築を図り、子どもの家庭復帰をサポート
  • 里親支援専門相談員:里親委託の推進や地域の里親をサポート
  • 職業指導員:社会生活ができるようなスキルを指導

上記以外にも、施設の責任者となる施設長や食事の提供をサポートする調理員、施設運営を支える事務員の方などが働いています。

参考
児童養護施設について|厚生労働省,P2
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(省令)|厚生労働省

児童養護施設に関連する法令

児童養護施設に関連する法令はいくつもありますが、ここでは2つの法令をご紹介します。

  • 児童福祉法
  • 児童福祉施設最低基準

児童福祉法は、児童の福祉を保障するための児童の権利国及び地方公共団体の責任を定めた法律です。また、児童福祉施設最低基準は、児童養護施設を含む児童福祉施設の設備、運営の基準を定めた省令です。ちなみに、児童福祉法は2016年に改正され、理念の明確化や家庭と同様の環境における養育の推進などが明記されました。

参考
児童福祉法|厚生労働省
児童福祉施設最低基準|厚生労働省

児童養護施設で暮らす子どもの現状

では、どのような子どもたちが児童養護施設で暮らしているのでしょうか? 実は、全国には約2万5千人の子どもが児童養護施設で暮らしており、入所理由の約65%は虐待です。さらに、障がいがある子どもが増えていることもあり、児童養護施設の高機能化が求められています。

児童養護施設で暮らす子どもは約2万5千人

厚生労働省子ども家庭福祉課によると、全国に605ある児童養護施設には24,908人の子どもが生活しています。(2019年時点)

一方で、平成の約30年間で、要保護児童の人数に大きな変化は見られていません。しかし、児童養護施設で生活する子どもだけを見ると、減少傾向にあることがわかります。これは、家庭と同様の環境における養育を優先する原則に基づいて、家庭的養護への取り組みが進んでいることが要因です。その証拠に、より少人数で家庭に近い生活環境である「里親」や「ファミリーホーム」で生活する子どもが2008年から2018年の10年間で1.8倍に増加しています。

参考
社会的養育の推進に向けて|厚生労働省,P3-4

入所理由の65%は虐待

児童養護施設へ入所する理由の65%は虐待です。これには、全国の児童相談所への児童虐待に関する相談件数が増加し続けていることが関係しています。
(参照元:平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>|厚生労働省,P1

ちなみに、「虐待」は、身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・ネグレクトの4つがあり、最近では心理的虐待が急増しています。虐待については、こちらの記事で詳しくご紹介しています▼
こどもの虐待とは?増え続ける児童虐待相談と必要とされる取り組み

参考
社会的養育の推進に向けて|厚生労働省,P5

児童養護施設で暮らす子どもの進路

児童養護施設での生活は特別なものではありません。地域の幼稚園や学校に通い、友達と遊び、周囲から多くのことを学び育っていきます。しかし、児童養護施設で暮らす子どもたちの進学率は全国平均に比べると低く、高校を卒業後、6割以上の子どもが就職するという現実があります。

中学生以上の就学状況

児童養護施設で生活する子どもは、原則18歳になると退所して自立した生活を送ります。退所後は頼れる大人がいなかったり、経済的な不安があったりするため、進学を選択しづらい現状があります。また、進学するための受験料や入学金、4月以降の生活費などの諸費用捻出のため、受験直前でもアルバイトを続ける例もあります。そのため、進学したくてもできない子どもが多数存在しています。

児童養護施設で生活する子どもの中学校卒業後の進学率は約96%です。参考までに、すべての中学校卒業生では約99%となります。(2018年時点)

【児童養護施設の子ども / 中学校卒業後】

2016年

2017年

2018年

進学

高校など

96.3%

94.1%

94.3%

専修学校など

1.8%

1.7%

1.9%

就職

1.1%

2.4%

1.9%

その他

0.8%

1.8%

2.0%

社会的養育の推進に向けて|厚生労働省,P74を参考に筆者作成)

また、児童養護施設で生活する子どもの大学進学率は10%台で、全国平均の50%以上を大きく下回る結果となっています。

【児童養護施設の子ども / 高等学校など卒業後】

2016

2017

2018

進学

大学など

14.2%

16.1%

14.0%

専修学校など

12.9%

14.8%

14.3%

就職

67.2%

62.5%

62.9%

その他

5.7%

6.6%

8.8%

社会的養育の推進に向けて|厚生労働省,P75を参考に筆者作成)

将来やりたい職業

厚生労働省が調査した「将来やりたい職業」によると、「先生・保育士・看護師等」がすべての年代で上位になっています。

中学3年生

高校3年生

合計

1位

先生・保育士・看護師等
(13.0%)

先生・保育士・看護師等
(9.9%)

先生・保育士・看護師等
(11.3%)

2位

スポーツ・芸能・芸術
(8.4%)

飲食業・調理等
(9.4%)

飲食業・調理等
(7.8%)

3位

飲食業・調理等
(8.2%)

工場に勤める
(9.4%)

スポーツ・芸能・芸術
(7.0%)

児童養護施設入所児童等調査の概要|厚生労働省,P29をもとに筆者作成)

児童養護施設退所後の課題

児童養護施設を退所することは、「自立」を意味します。多くの場合、高校を卒業する18歳のタイミングで児童養護施設を退所しますが、高校を中退した場合や高校に進学しない場合は15歳で退所することもあり、そこから自分一人で生きていかなければなりません。ここでは、退所後の就職状況と退所直後の困っていることについてご紹介します。

就職状況

東京都の調査によると、正規雇用で働いている人は45.2%しかなく、パート・アルバイトや派遣・契約社員などの非正規雇用で働いている人は46.7%となっています。これは、総務省統計局による15~24歳の正規の従業員の割合70.0%を大きく下回る数字です。

参考
東京都における児童養護施設等退所者の実態調査報告書|東京都福祉保険局,P19

退所後まず困ったこと

同じく東京都の調査で「退所直後にまず困ったこと」について調査したところ、精神面や金銭面で困っていることが分かります。

  1. 孤独感、孤立感
  2. 金銭管理
  3. 生活費
  4. 住民票や戸籍の手続き
  5. 健康保険や年金などの知識や加入手続き

施設から退所することで、これまで悩みを相談する相手だった施設の職員との関係が急になくなり、他に相談できる人もおらず孤独感や孤立感が大きくなります。さらに、実生活の場面で、賃貸契約をするにも携帯電話を契約するのも保証人が必要なことは多々あります。しかし、家族に頼ることができない(家族がいない)ため、自立したくても社会との壁を感じることもあるのが現実と言えるでしょう。

参考
東京都における児童養護施設等退所者の実態調査報告書|東京都福祉保険局,P52 

逆境に置かれた若者を支援するビヨンドトゥモロー

ビヨンドトゥモローは、「逆境は優れたリーダーを創る」を理念に、奨学金プログラム人材育成プログラムを実施し、児童養護施設で暮らす高校生や社会的に弱い立場にある若者を支援している一般財団法人です。そのプログラムの1つに、児童養護施設などの社会的養護の施設および里親家庭に暮らす高校生が対象の「エンデバー」があります。

エンデバーのプログラム内容

エンデバーの奨学金プログラムは、進学のための受験に際し、センター試験検定料および、大学・短大・専修学校の入学検定料・受験料が支給されます。

また、エンデバーでは様々な人材育成プログラムも実施されています。例えば、2019年10月には、加藤勝信厚生労働大臣を訪問し、児童養護施設に暮らす高校生がどのように主体的に自らのキャリアを構築するかについて話し合い、まとめたアクションプランを発表し、その内容について大臣と意見を交わしました。

エンデバー参加者の声

エンデバーに参加した藤本さんは、2歳の時に児童養護施設に入所して育ちました。今は、ご自身の努力と周囲の支えを得て、児童養護施設の職員になるという夢に向かって大学で学んでいます。インタビューでは藤本さんの生い立ちや生き方を深堀して伺っています。なぜ児童養護施設で育った藤本さんが児童養護施設の職員を目指すのか? ぜひこちらのリンクからご覧ください▼
学生インタビュー:児童養護施設の職員になる!自分が変わることで世界は違って見える|ビヨンドトゥモロー

エンデバーを含めたプログラムの詳細は、プログラム&活動でご覧いただけます。

まとめ

様々な事情により、親と一緒に生活することが難しく、児童養護施設で生活する子どもは約2万5千人います。その現実を受けて、国や地域による児童養護施設の小規模化や里親委託の推進、自立支援ホームの整備等が進められています。

しかし、増加の一途を辿っている虐待による入所や児童養護施設に求められる量・質の拡充による人員不足、進学を選択することができない金銭的不安、施設退所後の自立支援など、課題は山積しています。

ビヨンドトゥモローは、児童養護施設などの社会養護の施設や里親家庭で生活する高校生など、逆境を経験した若者を支援しています。これからの社会を創っていく若者のために、ぜひご支援をお願い致します!

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参考
児童養護施設とは? 受けられる支援内容、利用方法、現状について詳しく紹介します!|リタリコ発達ナビ
児童養護施設|全国児童養護施設協議会
児童養護施設入所児童等調査の概要|厚生労働省
児童福祉法|電子政府の窓口e-Gov
児童養護施設のご紹介|全国児童養護施設協議会