公益財団法人教育支援グローバル基金|ビヨンドトゥモロー

逆境を可能に変えて、未来を創る

 

近藤ジェームス

1967年生まれ。90年、慶應義塾大学経済学部卒業。97年、米国ハーバード大学経営大学院修了。2008年、米国イェール大学ワールド・フェロー。ツイッター・ジャパン元代表取締役会長。2011年に一般財団法人教育支援グローバル基金(ビヨンド トゥモロー)発起人となり、2011年から 2013年まで代表理事を務める。2019年より 公益財団法人国際文化会館理事長

東日本大震災を機に発足したビヨンドトゥモロー。その設立の背景には、どのような人々が関わり、どのような問題意識や想いがあったのでしょうか。設立当時の課題やチャレンジ、ビヨンドトゥモローだけが持つ価値や独自性などについて、創業時に理事として携わり、発足の原動力となった近藤正晃ジェームスさんに当時を振り返っていただきました。

 

未曾有の大災害を前に、結束することは自然な流れだった。

東日本大震災から10年。それは同時に「ビヨンドトゥモロー」の活動が10周年を迎えたことを意味しています。一般財団法人教育支援グローバル基金「ビヨンドトゥモロー」が設立されたのは2011年6月。震災からわずか3か月後のことでした。

活動10周年にあたり、発起人として、そして創設時の理事の一人として私なりに改めてあの時のことを振り返ってみようと思います。

震災の発生からほどなく、私は世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーの仲間と4人で集まり、自分たちに何ができるのか、さまざまな議論をしていました。当時、私はツイッター・ジャパンの代表をしていて、まさにツイッターというものが震災時におけるライフラインとして機能する初めてのケースを経験している最中であり、自分自身もそのことで毎日、大きな影響を受けていました。

物流が滞り、情報もかなり閉ざされている被災地で何が起こっているのか、それに対して我々はどんなことができるのか。情報をかき集めながら議論を重ねていく中で、メンバー全員がもっとも注目したのは被災地の子どもたちのことでした。震災がもたらす影響はどれだけ大きく、どれほどの期間に及ぶのか、その時点では想像がつかないけれど、おそらくそれは巨大であり、非常に長い期間にわたって続いていくものであろうと。そして、そのことに最も深刻な影響を受けるのは、次世代を担う子どもたちなのではないかと。ならば、そこに対してできることをやっていこうということになり、それを実践するための新しい組織を作ることにしました

当時、私も含めて4人のメンバーはそれぞれに自分の組織を持っていて、それぞれで個別に活動するという選択肢もありました。でも、それをしなかったのには幾つかの理由がありました。

一つは、あまりにも大きく衝撃的な出来事が起きている中で、一人ひとりは無力であると感じていたからです。大きな災害が起こった時、人間の衝動の中には、理屈は抜きにして何かをしたいという気持ちが強く起こるものだと思います。しかし、一人の人間ができることは限られている。だからこそ、みんなで結束して活動しようという気持ちになることは、ある意味、とても自然だったのではないかということです。

多くの人が普段は自分のことで精一杯で、他の人のことを考える余裕はなかなかないものです。逆に、みんなで一緒に何かをするのは大変だから、自分のやりたいことを自分がやれるようにやっているのが現状でしょう。ましてや、あの時に集まったメンバーは自分一人でも精力的に動いてきている人たちなので、必ずしも誰かと組む必要はなかったのかもしれません。にもかかわらずみんなで何かをしたいと思うに至ったのは、あの時の4人がほぼ同じ ような問題意識を持っていた、ということと、それだけ震災の衝撃が大きかったということではないかと思います。

もう一つの理由は、たとえば医療や食料、日用品を届けるとか、私の場合ならWi-Fiを使えるようにして情報を届けるとか、そういった個々のビジネスに直結することではなく、絶対にビジネスでは携われないところにこそ本当に困っている問題があるのだろうから、そこをなんとかしたいというのがみんなの思いであったからです。経済原理で解決できる問題とできない問題があり、できない問題の方がとても重要だから、取り組むのであればそちらにしたい、と思いました。そしてそのためには仲間をもっと増やし、組織をある程度の規模にしたいという思いで、知り合いに次々と電話をかけていきました。趣旨を説明し、賛同してくれる人にはお金もすぐに出資してもらうようにして、最終的に20人弱の人数が集まって、「ビヨンドトゥモロー」の最初の基盤を作ることができました。

どんなに素晴らしい思いつきであっても、その活動が長く続いていかないと意味がありません。持続的なものにしていくために、ある程度の数の賛同者を集めることと、さらに、その人たちの意識をつなぎ続けておくことの必要性を強く感じていました。まずは活動をスタートさせて、並行して資金を集めていけばいいのではないかという考えも浮かびましたが、たとえば事務局のスタッフになった人が、自分の初年度の給料と活動資金の両方を集める仕事をするというのは、やはり現実的ではないと思いました。

その意味でも10年前のあの時は、ありがたいことにしっかりとスタートから全力疾走できる資金を集めることができたと思っています。参加メンバーの意識が高い時に前倒しで資金を集めるということの重要性は、その後の私自身のほかの活動においても、さらに今でも、強く感じていることです

後編に続く

近藤ジェームス
ツイッター・ジャパ ン元代表取締役会長、一般財団 法人教育支援グローバル基金(ビヨンド トゥモロー)発起人、公益財団法人国際文化会館理事長

1967年生まれ。90年、慶應義塾大学経済学部卒業。97年、米国ハーバード大学経営大学院修了。2008年、米国イェール大学ワールド・フェロー。ツイッター・ジャパン元代表取締役会長。2011年に一般財団法人教育支援グローバル基金(ビヨンドトゥモロー)発起人となり、2011年から2013年まで代表理事を務める。2019年より公益財団法人国際文化会館理事長