公益財団法人教育支援グローバル基金|ビヨンドトゥモロー

学生インタビュー:児童養護施設の職員になる!自分が変わることで世界は違って見える

他の児童養護施設で生活する人に会ってみたい。

藤本さんの生い立ちを教えていただけますか?

2歳から児童養護施設(以下、施設)で育ちました。施設は、全国的にも大規模なところで、200~250人が生活していました。施設では、自分をつくって、真面目な子を演じていたと思います。

僕のいた施設は、小学1年生から高校3年生が同じ部屋で生活するのですが、小学校1年生の頃に、高校生からいじめを受けるようになりました。最初は怖くて施設の職員に言うこともできずにいましたが、なにかのきっかけで職員に相談したんです。そうしたら、さらにいじめがエスカレートして…。

忘れもしないのは、職員にいじめのことを相談した日の夜中に起こされて、「なにチクってんだよ」と髪を引っ張られて、殴られました。それで職員に言っても無駄じゃんって思っちゃったんです。それがきっかけで、施設の職員に壁を作るようになりました。大人を信用できないというか、心を開くことができなくなってしまいました。

施設内ではよくある負の連鎖なんですが、小さい頃にいじめられた子が大きくなって年下の子をいじめてしまうんです。

でも、小学校6年生の頃、年上の人たちが施設では抱えきれない問題を起こしたりして施設から出ていくことになりました。それで、中学校1,2年生の頃には、自分が施設内で一番年長になっていたんです。小さい時から一緒に生活してきた人たちが、悪い方向にいってしまったのはショックでしたが、これから施設を良い方向に作り直せたらなとも思いました。

振り返ると、中学生になる時期が自分にとっての大きな分かれ道だったと思います。当時、年上の人たちと仲が良かったので、一歩間違っていたら悪い方向にいく可能性がありました。もしそうだったら今の自分はなかったです。

2017年ジャパン未来リーダーズサミットにて

ビヨンドトゥモローのことはいつ知りましたか?

高校1年生のときに、職員の方がチラシを見せてくれたんです。チラシを見たときにすごく興味を持ったんですが、1人で参加する勇気はありませんでした。なので、同じ施設の幼なじみを誘って、一緒に参加できるんだったら参加すると決めました。でも、幼なじみは都合が合わず、一度は参加することを諦めました。

その後も、ビヨンド(ビヨンドトゥモローのこと)のチラシを見たことがずっと頭に残っていて、すごく気になっていました。一番気になったのは、児童養護施設の出身者が全国にたくさんいるということです。これまでは考えたこともありませんでしたが、ビヨンドのチラシを見て「そういえばいるよな…」って。それで、自分のいる施設以外を知りたいって思ったんです。自分と同じような境遇の人に会ってみたいと。数日悩んで、「やっぱりやってみたい」と職員に伝えました。

自分の考えを言葉にすることで職員との関係性が変わった。

ビヨンドトゥモローに参加した時の第一印象を教えていただけますか?

2017年エンデバー サマーリトリートにて(右側中央)

最初に参加したオリエンテーション・プログラムでは「自分がここにいていいのかな」って思わせるほど参加メンバーのレベルが高かったので、居づらいっていう印象があります。

まず気後れしたのが、自分のバックグラウンドについて話す時間です。話す順番は決められていなくて、話すことがまとまった人から話すという形式でした。でも、一体何を話していいのかわからない。そして、みんなの話を聞いていくうちに、みんなのバックグラウンドがすごいと思ってしまって、、どんどん言いづらくなって。最終的に一番最後に話すことになりました。

その後の活動でも、自分の意見が言えず、「ダメだな、自分」と思ってしまう場面が何度もありました。今まで自分のバックグラウンドや考え、夢を言葉にしてこなかったので、言語化するのに苦労しました。考えていることがあっても、それを伝えることができなくてすごく悔しかったです。

でも、参加メンバーに「君にはこういう良いところがあると思うよ」って言ってもらえたことで、自分の全部がダメなわけじゃないって前を向くことができたんです。そして、考えていることを言葉にするという自分の課題が明確になっていきました。

気後れと悔しさから始まったビヨンドトゥモローだったんですね。プログラムが終わってから変化はありましたか?

すぐに自分の考えを言葉にできるようになったわけではなくて、次に参加した夏のプログラムでも考えていることを言えない場面がありました。それがすごい悔しくて、プログラムの最後の反省の時間に「自分の意見を言えないのがすごく悔しいです。ここで変わりたい! 」とみんなの前で意志表明をしました。

この経験を通して、自分の考えていることを言葉にすることに加えて、自分の考えを人に伝えることを意識するようになりました。

なるほど。考えを人に伝えることで藤本さんの中で変化はありましたか?

まず、施設の職員にビヨンドで感じたことを話すようになりました。今までは事務連絡しか話をすることはありませんでしたが、プライベートなことも話し始めました。それから、職員に対する自分の考え方が変わって、職員との関係性がポジティブに変化していきました。

印象的だったのが、ある職員の方が自分が児童養護施設の職員になったきっかけを話してくれたことです。それが自分にとっては大きくて、その瞬間に職員との心の壁が壊れました。これはまさに、ビヨンドに参加したおかげだなって思っています。

ビヨンドトゥモローのプログラムで思い出深いものがあれば教えていただけますか?

秋にジャパン未来リーダーズサミットという大規模なプログラムに参加させてもらいました。そこでは、初めてビヨンドに参加する人も多くて、僕は経験者という立場だったので、プレッシャーを感じていました。

会場に入って、席に座って、ふと顔上げたら、参加する他のみんなもすごく緊張しているのが分かりました。それでふっと緊張がほぐれて、自分が初めて参加したときもそうだったなと思ったんです。

そのときに「自分の経験とか生い立ちを比較することはできない。それはそれぞれ違う」と話してくれた先輩の言葉を思い出しました。僕はそれにすごく背中を押してもらえたので。

だから自分も、「言いづらいって思うかもしれないけど、比較するものじゃないから全部さらけ出してほしい」って言ってみたり、1人でいる人に声を掛けてみたり、自分がしてもらって嬉しかったことをやっていきました。このときは、ちょっと成長できたなって思いました!

それにこのプログラムでは、色んなリーダーを見て、リーダーにも一人ひとり違った形があることに気付きました。みんなを上手にまとめられて自分の意見が言えるリーダーにならなきゃいけないと思っていたんですけど、そういうやり方じゃなくてもリーダーにはなれるんじゃないかって思いました。

自分の場合だと、最初から意見を言えたわけじゃないですし、人見知りでした。でも、その目線があるからこそできることがあるのかなって思えたんですよね。僕にとってビヨンドは、参加するたびに課題が見つかって、参加するたびに成長できる場です。

遠回りしてもいい。変化していく夢へのプロセス!

児童養護施設の職員になるのが藤本さんの夢と伺っていますが、その夢はいつ芽生えたものですか?

2018年3月オリエンテーションにて

施設内でいじめを受けて職員と心の壁ができたときに、「児童養護施設の職員になろう」と思いました。当時は、自分と同じような子を助けたいということよりも、いじめを解決できなかった職員のようにならないっていうのが強かったです。反面教師じゃないですけど。

なので、職員や友達に「児童養護施設の職員になる」とは言っていましたが、なぜそう思ったかは言わずにいました。でも、ビヨンドのプログラムに参加するようになってから、自分の考えを伝えることで気持ちが楽になりスッキリすると知りました。その経験をきっかけに、職員に自分の夢の話ができるようになっていきました。

「児童養護施設の職員になる」と思ったきっかけは変えることができません。ただ、職員に対するイメージがポジティブになったことで、職員の良いところを吸収して、自分の将来に活かせたらって今は思っています。

藤本さんにとっての理想の児童養護施設の職員像はありますか?

学校の先生に目指したいと思う方がいます。その先生は普段はすごく優しいけど、怒るとすごく怖い。荒れている子もその先生の話は素直に聞いていたんです。話を聞く理由は、威圧されたからとか怒られたら怖いからではなくて、先生の人柄に惹かれていて、大好きだから。だから、その先生に注意されたら話を聞くし、自分の悪かったところを認めるんです。その関係がすごいなって。自分もそんなオーラがあるっていうのかな…そういう人になりたいです!

あと、施設の職員にも目指したい人がいます。その方は、元々は警察官だったそうです。警察官の仕事で、非行少年と関わっていくうちに、この子たちのためにできることがあればやりたいと思うようになったそうです。それで大学に通って、教員免許を取って、児童養護施設で働くようになりました。そして、児童養護施設で働いてから、今はケースワーカーとして県庁職員をしています。

その他にも、語学留学で一年間海外へ行ったり、選挙に立候補して選挙活動をしたり、仕事をしながら保育士と社会福祉士の資格を取得し、次は公認心理士を目指している施設の職員がいます。実は身近なところに、大人になっても学ぼうとするロールモデルがたくさんいました。これに気づいたのも職員との間の壁が壊れたことにより、職員を知ろうとしたからだと思います。

その方々と出会って、年齢関係なくやりたいことをやれてる人というか、自分の夢を追っている姿がカッコいいなって思いました。だから、自分も夢を追い続けられる人になりたいです!

最後に、大学生になって今考えていることを教えていただけますか?

「児童養護施設の職員になる」という夢を持ったときから、資格を取るために大学へは行かなきゃいけないと思っていました。今では、行かなきゃいけないから大学に行くのではなく、行きたいから大学に行っています。心理福祉学科で学んでいますが、児童福祉と心理の学びが本当に楽しいです!

あと、大学生になってから大きな変化がもう1つあります。児童養護施設の職員になる夢は変わりませんが、いろんな経験をするために遠回りしてもしてもいいなって思うようになりました。

例えば、障がいの分野で働いて、児童養護施設に就職することを考えています。今の児童養護施設って、障がいを持った子どもが多いんです。それが理由で親から虐待を受けたりっていうのもあるんですけど、児童養護施設と障がいの分野って切り離せない関係なんです。他にも、福祉の進んでいる国に行って学びを深めたいとも考えています。

僕は、ビヨンドに参加したおかげで施設の職員と話すようになって、職員の思いを知って、刺激をもらって、変わることができました。僕と同じような経験をした人にとって、僕の生き方が1つのロールモデルになれたらいいなって思っています。