一時保護のいま――保護された子どもの声に触れて
1.一時保護とは
一時保護とは、虐待や貧困、親の急病などの理由から、家庭で暮らすことが難しい子どもを、緊急措置として一時的に保護することをいいます(児童福祉法33条1項)。

一時保護された子どもたちは、主に児童相談所などに併設される「一時保護所」という場所で、一日を過ごします。
一時保護所は、居室・食堂・お風呂・トイレ・体育館・運動場などが設けられており、寮のような施設です。
子どもたちは、その安全の確保のため、家族との面会ができないのはもちろん、学校に通うことができません。その分、一時保護所で学習や運動ができる環境が整えられています。
保護の期間は原則として2カ月ですが、一定の場合には延長されることもあります。
保護所での生活を終えると、子どもたちは、児童相談所や保護者の意向・調整によって、家庭に戻るか、児童養護施設や里親家庭で暮らすことになります。
2.一時保護の現状
一時保護所の数や保護の件数は年々増加しており、近年その体制や保護の在り方が見直されてきています。
※1:令和6年4月1日。子ども家庭庁虐待防止対策課「児童相談所関連データ」より
※2:厚生労働省「実態把握調査の結果(速報値)について(令和2年9月18日)」より
※3:令和3年度福祉行政報告例より
2025年6月からは、一時保護に司法審査が取り入れられました。
これまで、子どもを一時保護するのは、児童相談所長(=行政)のみの権限でした。親子の分離という大きな権利の制限を伴う一時保護には、その適正性や手続きの透明性が確保されることが必要です。
そこで、親権者等の同意がない場合などの一定の場合には、一時保護実施のために裁判所(=司法)による許可が必要となりました(児童福祉法33条3項)。

3.保護された経験のある奨学生の声
一時保護中の子どもたちが、日々どのような環境で過ごし、どんな思いを抱えているのか――。そうした声に、直接触れる機会は決して多くありません。
今回、ビヨンドトゥモローの奨学生の一人が、自らの一時保護の経験について語ってくれました。当事者の声を通して、見えづらい現実の一端に触れていただければと思います。
Aくん(高校3年生)
Q.一時保護されたときのことについて教えて。
小学4年生の5月ごろ、父親の虐待が理由で一時保護されました。僕の顔のあざを見て誰かが通報してくれたようで、何度か児童相談所の職員さんが家に来て話をしてくれて、保護されることになりました。
それまで親元を離れたことがなかったので、はじめは、これからの生活に不安を感じていたし、悲しい気持ちが大きかったです。離れて時間が経つにつれて、だんだん安心感が生まれていった記憶があります。
Q.一時保護所はどんな感じだった?
僕の場合期間が長くて、保護されてから8か月ほど保護所にいました。
保護所には、幼稚園生から高校生までバラバラの年代の子どもがいて、中高生と小学生は5,6人部屋で過ごしていました。
周りの子どもたちはみんな優しかったです。年上の中高生は少し怖い人もいたけど…。大人は、厳しい人もいれば優しい人もいる、学校の先生たちのような感じでした。

Q.一時保護中、どのように過ごしていた?
保護されている間、学校には通えませんでした。
その分、毎日学校のように時間が組まれていて、体育の時間には保護所にある運動場で運動したり、工作をする時間があったりと楽しかったです。
ただ、保護所にいる子どもたちはみんな学年がばらばらなので、学校の授業のような形で勉強を教わるわけではなく、プリントなどで学習していました。
食事は、保護所の中に食堂があって、専属の調理師さんがいて、ごはんやおやつを作ってくれていました。味もすごく美味しかったです。
Q.一時保護所を出てからは、どうしたの?
児童養護施設に移りました。
保護所と施設は、集団生活という部分では似ているけど、場所も人も全く違うところで生活することになるので…環境が変わる不安が大きくて、初日に泣いてしまったことを今でも覚えています。
施設に行くことが決まったその日にすぐ移動することになったので、前の小学校の友達にお別れを言うこともできなくて、前の学校の友達に会いたいなと思うこともありました。
4.おわりに
一時保護所では、子どもが安心して遊び、学び、自分らしさを取り戻せるような環境づくりが進められています。
「一時保護」と聞くと、少し暗いイメージやネガティブな印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、実際には、子どもが安全に、そして“子どもらしく”過ごすために用意された大切な制度です。
インタビューに応じてくれたAくんも、一時保護所での経験について、こう語ってくれました。
「一時保護所は、“悪い場所”ではありません。
保護所の設備は整っているし、周りの子どもたちも、親がいてもいなくても変わらない、本当に優しくて素敵な子たちばかりでした。一時保護所にいた期間、僕はすごく楽しかったです。」
「親がいないから」「一時保護されたから」といった理由で、可哀想と決めつけられないように―彼の言葉には、そんな願いが込められていました。

こうした前向きな声がある一方で、「自由が制限される」「外の世界と遮断される」といった制度上の側面も避けられません。
現場の努力により環境は少しずつ整いつつありますが、それでも子どもが不安や孤独を感じる場面があります。
本来、子どもを守るための制度であっても、その中で子ども自身が苦しさを抱えてしまうことがある――そんな現実にも、丁寧に目を向けていく必要があります。
一時保護は、「子どもを守る制度」であると同時に、「その子の未来につながる場所」であるべきです。
何より大切なのは、そもそも子どもが一時保護を必要とするような状況を生まないこと。
そして、たとえ保護が必要になったとしても、子どもが安心して、穏やかに、時には笑顔で過ごせるような仕組みであることです。
一人ひとりの子どもにとって、一時保護が“次の一歩”につながる場となるように。
その声に耳を傾け、制度をより良いものにしていくために、私たち大人が関心を持ち続けていくことが求められています。