「体験格差」-チャンスの差は未来を変える?若者の声から考える
1.「体験格差」とは
「教育格差」という言葉を聞いたことのある方は、多いのではないでしょうか。
近年、この言葉に似た「体験格差」という言葉が注目されています。
「体験格差」とは、明確な定義はありませんが、「学校以外の場で得られる体験の多い子どもと少ない子どもの間に生じる差」といった意味合いを持ちます。
「体験」とは?

体験とは、文字通り、自分の体を通して実際に経験する活動のことを意味します。主に、次の3つに分けて考えられます。
・直接体験:実物に触れたり現場に行ったりして得られる体験(例:キャンプや博物館見学)。
・間接体験:インターネットやテレビを通じて学ぶ体験(例:自然の動画を観る、オンラインで新しい知識を得る)。
・擬似体験:シミュレーションや模型を通じて模擬的に学ぶ体験(例:VRで工場を見学する、飛行機の模型で構造を学ぶ)。
体験格差が生じる理由とは?
ひとり親家庭や経済的に困難な家庭では、子どもがこうした体験を得る機会が限られることが課題となっています。
直接体験をするには、移動費や参加費がかかるほか、荷物の準備や送迎などが必要となります。また、子どもが普段と異なる環境に身を置く場合、心理的なサポートが不可欠です。
間接体験や擬似体験をするためには、インターネットやテレビといったツールが必要ですが、これらの設置や使用にも費用がかかります。
親として子どもに多くの経験をさせてあげたいと願っても、現実には、経済的な理由や時間の制約によって機会の提供が限られてしまう場合があるのです。
2.なぜ体験が必要なのか
子どもの成長の過程において、「体験」は重要な意義を有しています。
図:体験活動による効果
もちろん、「体験」が少ないことが決して「悪い」わけではなく、「多ければ多いほど良い」と結論づけられるわけではありません。
しかし、子どもたちの選択肢や可能性を広げるためには、できるだけ多くの体験を得られる環境を整えることが重要です。
このような環境整備は、子どもを育てる親のみが担うべき責任ではありません。
地域社会、行政、さらには民間企業など、社会全体が協力して取り組むことで、すべての子どもたちに平等に体験の場を提供することができるでしょう。
3.「体験格差」感じたことはある?若者の声
「しょうがないと思い、うそをついていた」「『諦めない選択』を取れるようになれば―」
若者は、「体験格差」についてどう思っているのか―ビヨンドトゥモローの年間プログラムに参加する奨学生にインタビューしました。

Q. 周りと「体験格差」を感じた経験はある?
Aさん:小学生のころは施設にいたので、差を感じることはありませんでした。中学生になって、両親がいる家庭の子と過ごすことが多くなると、周りが長期休みに旅行やお出かけに行っている中、自分は一人で家にいることが多く、周りとの違いを感じました。
周りをいいなと思う反面、自分の家庭の状況がわかっていたので、しょうがないと思い、話を振られても適当に嘘をついていました。
Bさん:中学生の頃、周りの友人たちは当たり前に習い事に通っていましたが、私は放課後に家事をしなければならなかったし、親からも金銭的に習い事はできないと伝えられていました。塾に通っている生徒は成績が良い人が多く、生徒会の役員として活動するなどもしており、家庭のサポートが体験に 深く結びついているなと痛感したことがあります。
Q. 自分で「体験」を得たいと思って、何か行動したことはある?
Aさん:正直、ありません。当時から自分の家の状況がわかっていたので、旅行に憧れを抱くことはなくなっていたし、当時は「体験格差」というものがあることは知らず、自分の状況について特になんとも思っていなかったです。
Bさん:民間団体が行っている無償の留学プログラムに参加し、夢だったカナダへの留学を実現させました。倍率の高いプログラムでしたが、採用担当の方に絶対に留学したいという熱意が伝わったのかなと思っています。
Q.「体験格差」について、率直にどう思う?
Aさん:私自身、体験格差というものを知ったのが、福祉を学んでからで。中学生のときは、これが問題視されることだとは思っていませんでした。
今思うのは、「体験格差をなくす」というよりも、「格差を生んでしまうきっかけから変えていったらいいな」ということです。無理やり体験を提供して解決なのではなく、自分が何かをやりたいなと思ったときに、それを実現できる環境があることが大切だと思います。
Bさん:私は今までやりたいことがあっても、金銭的に諦めたり何かを犠牲にしたりしなければなりませんでした。その時は、周りと比べてどうして自分だけ我慢しなければならないのだろうと考えていましたが、奨学金やプログラムによっては自分の家庭状況が考慮されるものもあり、自分だからこそ当てはまるものもあることを知りました。そういったものは積極的に利用して「諦めない選択」を取れるようになれば、周りとの体験格差を縮めることに繋がるのかなと思います。
4.ビヨンドトゥモローが届ける「体験」
ビヨンドトゥモローは、親との死別や離別、社会的養護のもとで暮らす高校生・大学等1年生に、奨学金の支給と、年間を通じた人材育成プログラムを提供しています。
プログラム参加にあたっては、参加費や交通費、食費などの費用負担は一切ありません。
宿泊型のプログラムやオンライン活動を通じて、社会課題について議論したり、リーダーたちと対話したり、同世代と交流する機会を提供しています。
奨学生たちは、各プログラムを通して、自分の未来を見つめ、考える力を育みます。
ビヨンドトゥモローの活動のようす(山梨県河口湖周辺にて)
Aさん:プログラム内容を見て、お金をもらえるだけの団体ではないことを魅力に感じました。東京行ける!とも思いましたが(笑)、プログラムの内容に惹かれて応募しました。
ビヨンドトゥモローのプログラムが、初めて自分の住んでいる地方から出た経験でした。中学生の頃、周りが旅行に行った話を聞くときは強がっていましたが、そのころ憧れていた旅行の思い出より、ビヨンドでの体験は倍楽しいです。ただどこかに出ていくだけでなくて、その先で毎回たくさんの学びがあるからですかね。
Bさん:私は、SNS上で「ジャパン未来リーダーズサミット」の広告を目にして、初めてサミットに参加しました。自分の視野が広かったことを実感し、年間奨学生として活動することを決めました。
ビヨンドトゥモローでは沢山の出会いがあります。アルバイトや留学経験があるだけではなく、高校生のうちから探究活動に取り組んでいる人など、本当に色々な経験を積んでいる人が多いので、彼らの存在が刺激になり、自分もできる範囲で何か行動してみようというきっかけになりました。
私たちは、子どもたちの可能性が環境によって狭められない社会を目指して、ビヨンドトゥモローでしか得られない特別な「体験」を届け続けます。この体験が、子どもたちの未来を切り拓く力になることを願っています。
〈参考〉
文部科学省HP 体験活動事例集-体験のススメ-[平成17、18年度 豊かな体験活動推進事業より]