公益財団法人教育支援グローバル基金|ビヨンドトゥモロー

ヤングケアラーとは ―誰もが”持つべき時間”を確保できる社会にするために

1.知っていますか?「ヤングケアラー」のこと 

ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話や介護等のサポートなどを行っている18歳未満の子どものことをいいます(「日本ヤングケアラー連盟」による定義)。 

例)病気や障害のある家族の代わりに家事を行う、幼いきょうだいの世話をする、日本語を話せない家族の通訳をする、家計を支えるために労働している、アルコール・薬物・ギャンブル依存などを抱える家族に対応しているなど

近年、三世代同居率が低下して核家族化が進んでいること、共働き世帯やひとり親家庭が増加していることによって、このヤングケアラーの増加が社会問題として問題視されるようになりました。 

なお、こども期(18歳未満)に限らず、進学や就職の選択をする時期にあたる18歳以上の若者(おおむね30歳未満)も、「ヤングケアラー」に含むべきという考えもあります。 

しかし、「ヤングケアラー」という言葉の認知度は29.8%と低く、その実態は未だにあまり知られていないのが現状だといえます。
(※令和3年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究において「聞いたことがあり、内容も知っている」と答えた人の割合)

このコラムが、ヤングケアラーについて知識を深め、本当に必要な支援は何なのか、社会において彼らのために何ができるのかを考えるきっかけとなればと思います。 

2.時間や体力、心のゆとり…様々なものが奪われる

 ヤングケアラーである子どもは、家族のケアを担う分、勉強や部活に励む時間、趣味や友人と楽しむ時間、将来について考える時間といった、“子どもとして”本来得られるはずの貴重な時間が奪われてしまいます。 

データで見てみると、「ヤングケアラー」という言葉の認知度に対して、実際にケアを行っている学生は1学級に1~2人ほどと、その数は少なくないことが分かります。 

 (図1) 

 

また、「世話をしている家族がいる」と回答した小学生は、健康状態が「よくない・あまりよくない」遅刻や早退を「たまにする・よくする」と回答する割合が、世話をしている家族がいない人よりも2倍前後高くなっています。 

世話に費やす時間が長時間になるほど、学校生活等への影響が大きく、本人の負担感も重くなることが確認されています。(令和3年度ヤングケアラーの実態に関する調査研究) 

 

また、家族のケアをしている中高生は、家族のケアについて相談したことがない割合が高く、学校側からしても、「家族内のことで問題が表に出にくく、 実態の把握が難しい」という理由で、ヤングケアラーの存在が顕在化しないことが多いといいます。 

 (図2)

 もっとも、同じ調査では、家族のケアを行う中高生のうち、「学校や大人に助けてほしいことは特にない」「やりたいけどできていないことは特にない」と回答する回答する人がいずれも半数近くを占めています。 

その背景には、家族の問題に外部が介入することへの抵抗や、家族のケアを担うのは当然であるとの考えがあります。 

また、上のデータからもわかるように、現状が変わるとは思えないと考えている者も多く、こうした考えの背後に、ヤングケアラーの負担が隠れてしまっているといえます。 

3.広がる支援の輪 

これまで、ヤングケアラーに対する支援は十分に行われておらず、法による支援の対象としても位置づけられていませんでした。 

しかし、令和6年6月、「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」において、子ども・若者育成支援推進法を改正し、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象にヤングケアラーが明記された上で公布・施行されました。 

また、こども家庭庁によってヤングケアラーの特設サイトが開設されており、その認知度を高め、社会として支援していこうとする動きが見られ始めています。 

こうした支援は、ヤングケアラー問題を解決する糸口になるのでしょうか。 

実際に学業の傍らで家族のケアを行った経験を持つビヨンドトゥモローの学生の言葉から、「本当に必要な支援」とは何なのかを考えてみたいと思います。 

4.「経験」と「思い」

ビヨンドトゥモロー卒業生のSくんは、当時の経験について、こう語ってくれました。 

7歳の頃父が病気で亡くなり、家事と仕事を1人で担うことになった母親の代わりに、5つ離れた弟の世話をしていました。母は、夕方から仕事に出かけ、深夜12時から1時頃帰宅するという生活を送っていたため、弟が寝る時間になるまで、夕食やお風呂の面倒を見ていました。 

当時を振り返ると、精神的に早く自立できたことは良かった面だと思っていて、「やりたくない」という理由で行動をしないということはなく、必要だと思うことは行動することができていました。進路に関する選択にもそれが活きています。 

一方で、家族といても「世話の対象」として見てしまい、安らぎを感じることができず、人との触れ合いを外に求めてしまうといった、長期的な問題を抱えてしまった気がします。 

当時は、相談できる場所が思いつかなかったし、なんとかなるだろうと思って突き進んでいたらなんとかなっちゃった、という感じなので、特に誰かに相談することもなかったです。今考えると、本当にギリギリで過ごしていたなと思います。 

そして、「どのような支援があったらよかったか」という問いかけには、次のように答えてくれました。 

支援をすると言われても、家の内側に入ってくるのは大変だと思うし、親との関係をどうにかしてくれたら助かったかもしれないけど、外部に頼むことでもないのかなと。相談窓口があって、メンタルのケアをしてもらえていたら、何か違ったところもあったかもしれません。 

あとは、家のことと学業を両立するにあたって、奨学金を調べて応募して…という作業をすべて自分でこなすのが大変だったので、申請できる奨学金を探してくれる機関があればよかったなと思います。 

もし、当時の自分に声をかけるとすれば、「まず自分のことを考えて」と言いたいですね。家族のために頑張ることもいいけれど、一旦冷静になって、「なんとかならない」と思ったら、限界の兆しだと思うんです。まずは、自分のやりたいことをできる状態を確保して、他のことに向き合ってほしいと思います。 


また、闘病しながら働く母親の代わりに、妹の世話や家事を続けているYさん(ビヨンドトゥモロー卒業生)は、ヤングケアラーへの支援として必要なことについて、次のように答えてくれました。 

小学6年生の夏ごろ、両親が離婚して、指定難病持ちの母と妹との三人暮らしになりました。母親の実家がある地方に引っ越しましたが、友達がおらず、頼れる人がいませんでした。 

私は当時、誰にも相談できませんでした。今を生きるのに必死で相談することが頭になかったし、自分がヤングケアラーだとも思っていませんでした。勉強がしたいのに家事に追われるという状況を一人で抱え込んでしまった経験から、その人の負担がどのくらいかを大人が把握したうえで、家事代行等のサポートやご飯を食べさせてくれる支援があればいいなと思います。 

ただ、もし支援を受ける環境が整っていても、「人に話しても状況は変わらないと思う」「家族の面倒を見るのは当たり前」と自分も思っていましたし、そう思う人が多いんじゃないかと。私自身、今でも状況は変わらないので、もう自分がやった方が早いと思っています。 

それを問題だとは思っていないし、母子家庭ならしょうがないと。でも、普通の家庭だったら今頃勉強できたり、ゆっくり寝られたりできるのかな、受験勉強できる時間が不平等だなと思う時も正直あります。 

もしかしたら、同じ境遇の人と感じている不満感等を話すことで、「自分で自分の家族の面倒を見るのは当たり前」という考え方が変わるのかなと思います。 

5.本当の「解決」のために 

こうした声から、支援を行うにあたっては、乗り越えるべき壁が多くあることが分かります。 

支援を通して、学生たちに心理的な不安を生じさせないようにすること、外部による家庭の介入の抵抗感をなくすこと、支援が確実に状況を改善するものであること… 

支援が救いの手を差し伸べる第一歩になる一方で、学生たちが「自分はヤングケアラーである」と自覚すること、そして「他人と違う」と思い込ませてしまうことにも繋がりかねません。また、家庭の事情を知られたくない人もいれば、支援を受けても何も変わらないと感じている人もいます。 

多感な時期である子どもたちに対する支援であるからこそ、慎重に、客観面と主観面の冷静な判断が求められます。 

「学生たちを尊重した、慎重で確実な支援」が必要であるといえるでしょう。 

家族のケアを行うことが、必ずしも学生たちにとって悪いことであるとはいえません。しかし、ケアによって「本来持つべき時間」が奪われることで、将来の選択肢を奪うことになってほしくはありません。 

 

ビヨンドトゥモローは、学びたい意志のある学生を応援しています。 

私たちが行うプログラムの中で、自らのこれまでの経験や今の思い、将来について共有する時間が設けられています。こうした時間が、ヤングケアラーと呼ばれる学生たちにとって、何か解決の糸口を見つけられる機会になればと考えています。 

精神的なケアや、進学に関する相談を受けるだけでも、彼らにとって大きな救いになることもあります。社会における窓口を増やす、相談しやすい環境づくり、家族のケアを行う学生同士で話す場を設ける…彼らのために具体的に何ができるのか、私たちはこれからも考え続けていくべきでしょう。 

6.参考 

・一般社団法人日本ヤングケアラー連盟ホームページ( https://carersjapan.com/about-carer/young-carer/)
子ども家庭庁ヤングケアラー特設ページ(https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/)
・令和3年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 (株式会社日本総合研究所)
・(図1・2)令和2年度「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

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