奨学金制度とは? -データでは見えてこない“リアル”な実体
1 「奨学金」のこと、どれくらい知っていますか?
「奨学金」とは、高校や専門学校、大学、大学院等の進学に際し、経済的に困難のある者に対して、学費を支援する制度のことです。
主に、給付型奨学期と貸与型奨学金に分かれます。
(図1)
近年、大学進学率の上昇に伴い、奨学金制度の数は増加しており、大学生(昼間)のうち、奨学金受給者の割合は約半数の49.6%[1]に上ります。
2020年度からは、日本学生支援機構による「高等教育の修学支援新制度」[2]がスタートし、住民税非課税世帯・これに準ずる世帯の学生に対して、授業料・入学金の減免と給付型奨学金の給付が受けられるようになりました。
また、貸与型奨学金を受給した卒業生に対して、各都道府県における奨学金返還支援制度が行われるなど、行政から民間まで、支援の幅は広がりを見せています。
(図2)
2 データからは見えてこない“問題”とは?
一見充実しているように見える奨学金制度ですが、その受給に関しては、まだまだ課題が残っています。
奨学金の利用経験がある人を対象にしたアンケートでは、次のようなデータが明らかになっています。
(図3)
(図4)
貸与型奨学金の利用者が半数以上である一方、多くの人が「余裕がある」といえない中で、4年間の大学生活の3倍以上の期間をかけて、貸与型奨学金を返済しているのです。
また、奨学金の問題点は、目に見えるデータの話に限りません。
実際に奨学金を受け取りながら生活しているビヨンドトゥモローの学生たちは今、こんな問題にもぶつかっています。
大学1年生Hくん:貸与型奨学金・給付型奨学金併給中
自分で奨学金情報を集めてくるところから始めたので大変でした。
高校生の頃は奨学金情報サイトの存在を知らなかったので、学校で貼り出されているチラシや、ネットを主な情報源としてほとんど1から探しました。
一番苦しかったのが、自分の家庭環境や、情報を書く際に、各財団が想定している家庭環境や経済状況に自分が含まれないことでした。だから、受給対象になのか、どんな書類を用意して、どんな情報を提供しなければならないのかを、各財団に逐一問い合わせていました。
応募時の作文については、各財団で求められる内容が違ったので、それぞれの内容で書かなければならず、学校の先生方の協力を得ながら作成しましたが、苦労しました。高校 3 年生だったので、その間にも定期考査や模試があり、申込書の締切を考えたり、自分の学習計画を考えたり、頭がパンクしそうになっていました。
また、奨学金の納入は早くて5 月だったので、最もお金が必要な入学時のタイミングで、その大きな金額のお金を一度立て替える負担は大きかったです。
大学2年生Yさん:給付型奨学金受給中
奨学金とアルバイトで生計を立てていますが、ひとり親である母親が病気で治療費がかかるため、毎月5万円実家に入れています。今後の就活や引っ越し代のために貯金をしていることもあり、大学で使用する教材費やゼミ代、試験を受けるお金など以外で自由に使えるお金はほとんどありません。
現在給付型奨学金を複数受給しているのですが、各団体に毎月か隔月で領収書や生活状況を提出する必要があり、団体によって提出日が異なるので大変です。
提出書類を出さなければ奨学金が止められるし、成績が落ちても止められてしまうので、常に不安と葛藤があります。
余裕がある生活ではないけれど、大学での勉強が楽しいので、なんとか耐えられているなと思います。
ただ、大学受験の段階で、奨学金がいくらもらえるか不透明だったことで、実家から通うという選択肢しかなく、もう少し具体的な見通しが持てていたら他の選択肢もあったんじゃないかと考えることもあります。
3 それでも「学びたい」という思い
生活や返済が大変なら、進学せずに就職すべきなのでは…という思いが過るかもしれません。
それでも学生たちは、奨学金を受給して進学を志します。その根本にあるのは、「学びたい」「夢を叶えたい」という強い意思です。
大学2年生Kくん:給付型奨学金・貸与型奨学金併給中
高校生の頃、高卒と大卒で求人件数が全く違うことを知り、こんなに差があるのなら大学に行った方がいいのではないか…と思うようになりました。
里親家庭で育ちましたが、里親さんが「子ども食堂」をしていたり他の里子を受け入れていたりと、子どもと関わる機会や勉強を教える機会が多かったことから、教師になりたいという目標ができました。
学年のほとんどが進学する高校だったこともあり、目標が明確になってからは、大学進学を決意して、自分の理想とする教師像に近づける学部を選択しました。
奨学金がなければ大学に行けてなかったし、教員免許も取れないので、奨学金を受給できていることはとてもありがたいです。
さまざまな課題が残りつつも、奨学金受給経験者に対するアンケートにおいては、奨学金を利用して高等教育を受けたことについて約75%が「満足した」と答えています。
また、各種民間の奨学金団体においては、奨学生同士やOBとの交流会が開催されることもあり、奨学金の受給を通した縦横の繋がりや「誰かに応援してもらっている」という実感が生まれるといいます。
経済的支援だけでは実現できない「直に応援する」「場を提供する」という支援も、奨学金制度の充実に欠かせないものです。
こうして奨学金制度は、学生への経済支援を通して、彼らが夢を追い求めるための道を拓くチャンスに繋がるのです。
4 ビヨンドトゥモローの奨学金について
ビヨンドトゥモローは、高校生・専門学生・大学生への給付型奨学金の支給を行っています。
支援対象は、親との死別・離別を経験した、または児童養護施設などの社会的養護の施設や里親家庭で育った、学びたい意思を持つ学生です。経済要件や専攻の限定はありません。
奨学金受給者は、奨学金支給と併せて、「人材育成プログラム」に参加することができます。彼らが学生として、人として、それぞれの「思い」を叶えられるような場を提供しています。
詳細は、プロジェクト概要でご覧いただけます。
ビヨンドトゥモローの活動は、皆様のご寄付で成り立っております。ご寄付は、下記のように様々な形でお受けしております。
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逆境に置かれながらも頑張る若者を支援したいと思ってくださった方は、ぜひ、こちらからご寄付をお願いいたします。
5 まとめ
奨学金制度が広がる一方で、未だ就学に困難を抱える学生は多く存在します。
それでも「学びたい」という強い気持ちを持つ学生に対して、奨学金制度の充実は、彼らの道を開く大きな方法の1つです。
「お金がないから仕方がない」と諦めてしまう人を生まないために、それが当たり前になってしまう社会にならないために、社会全体で何ができるのか、考えていくべきではないでしょうか。
[1] 独立行政法人日本学生支援機構「令和元年度奨学事業に関する実態調査 」より
[2] 独立行政法人日本学生支援機構「給付奨学金(返済不要)」 より
図2:独立行政法人日本学生支援機構「令和元年度奨学事業に関する実態調査 」より
図3:労働者福祉中央協議会「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」報告書
ガクシー「奨学金に関する実態調査2023年」プレスリリース より
図4:労働者福祉中央協議会「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」報告書 より