田中れいかさんと考える、困難を抱える若者の現状と挑戦について(後編)
ビヨンドトゥモローでは、社会的養護施設出身でモデルの田中れいかさんと、ビヨンドトゥモローインターンの大学生4名による座談会を行いました。
児童養護施設や里親家庭に暮らしたり、ひとり親家庭に暮らしたりする若者にとって、どのような事が自身の将来やキャリアの選択肢を考える上で負担や障害となっているのかを聞きました。彼らが安心して暮らせる社会、挑戦できる環境とはどのようなものでしょうか?
前編では、田中れいかさんの書籍をもとに、田中れいかさんとビヨンドトゥモローのインターン生が、社会的養護の下に暮らすことついての経験や共感する点を話し合い、困難を経験した若者が感じる生きづらさについてそれぞれの意見を述べました。後半はより若者が安心して暮らせる社会や挑戦しやすい環境について話し合います。
前編はこちら
挑戦に必要な環境、経験、機会について
ビヨンドトゥモロー:では次に、皆さんがこれから挑戦していくにあたって、もっとこんなものがあったら良いのに、と思うものはありますか?それは環境でしょうか?機会でしょうか?
Oさん:周囲の人が自分を応援や肯定してくれるのは有難いですが、提案してくれる人がいればもっと有難いです。正しい情報を提供してくれる人が周りに居た方が挑戦しやすいと思います。学校の先生などで、学生が何かになりたいと言った場合に、データや道のりを適切に示してくれる人がいると、将来へのイメージが湧きやすいです。学校へ行って、部活して、バイトして、奨学金のことを調べたりする中で、将来や職業の選択肢まで一人で調べるのはとても大変です。
Yさん:書籍の中で、施設出身者は社会性が高いと書かれていた部分について、「そういう捉え方ができるのか」と驚きました。「施設出身だからこそ」、という想いを持てていれば、挑戦に繋がるのでは、と思った。
れいかさん:ちなみにYさんの「だからこそポイントは?」
Yさん:父が居ないので、「自分が頑張らないと」と思えたり、家族内での自分の役割を意識できたり。親と離れて暮らしている子とか、自分と似た環境の子の気持ちは共感できると思います。
うしろめたさとして自身の背景をとらえるより、プラスに捉えられるということに早い段階で気づけたら良いなと。補助がもらえるとか、そういった現実的なものも含めて、自分が持つプラスの部分に目が向けられれば。
Mさん:社会的養護の子が社会と関わる上であると良いなと思うのは、3つあります。まず一つ目は、教育現場での先生達の認知・理解・共感がほしいです。私たちの状況をいかに深く理解してもらえるか。それによって若者の精神的、物理的支援が広がると思います。2つ目に、支援団体との出会いも大きく、自分のアイデンティティに関わってくると思います。3つ目は自分の逃げ場を持つ事。なんでも話せる場所や、私のようにテーマパークなどでも良いと思いますが、自分で傷を癒したり、前に向かってエネルギーをためる場所があると良いと思います。そこから夢を持ったり過去を整理したりできると思うので。
れいかさん:何かするときにそれを「言葉」にするのは大事だと思います。私は芸能活動NGの施設にいたので、夢を言っても無駄だという経験が培われた部分があります。施設を出たあとに自由になったときにも、友人と自分の大学生活が違いすぎて。自分の気持ちを押し殺すようになりました。私はバイトばかりで、親とも会えず、経済的支援もありません。バイト代が生活費に出て行ってしまっていたので、友人と会話が合わなくなっていました。施設職員さんともなかなか会えず、自分の味方がいない、頼れる人がいないと感じていました。当然、悩みや夢についても、誰にも相談できませんでした。
そんな時、私は日記に書いて発散していました。誰にも話せない、それでも「自分だけは自分の味方でいよう」と思っていました。自分の幼少期から持っている夢を自分で叶えてあげるのが生きていく上で必要で、そうすることで自分のことが好きになれるかもと思いました。自分の根っこに「自分を信じる」、「何かあっても自分の責任」という考えがあるような気がします。
当時は「相談できる大人がいる」と言われても相談はしなかったと思います。
自分を知ったり、自分らしさを獲得できる機会があれば、強がっていた自分も仲間との出会いを通して少し肩の力が抜けたかもしれません。似た境遇をしている友人と繋がることは良いことだと思います。
Kさん:私もビヨンドトゥモローに来て変わった気がします。以前、周りに話す前は、自分だけがこんな経験をしていて、自分だけが辛いと思っていました。誰にも話せないし、明るいキャラで生きていたので、悩みを表に出せず、抱えていました。似た経験をした友人と会え、弱音を吐けたり、アドバイスをもらえたのが良かったと思います。
Yさん:自分の意思を発信できる環境や仲間と話せる居場所は必要ですね。
これからに向けて
ビヨンドトゥモロー:それぞれ逆境を経験してきた皆さんですが、これからに向けてどんなことにトライしていきたいですか?今日の感想なども聞かせてください!
Kさん:状況を言い訳にせずに挑戦していきたいです。言い訳は、言おうと思えば色々言えます。逆にみんなが「無理だろう」ということにも挑戦していきたいと思っています。
Yさん:「だからこそ視点」を持っていきたいです。辛い事でもこれで得られる成長があります。一見悪いことでも、良い側面もあるという視点を持ち、挑戦していくことに価値があると思います。最近子ども食堂でボランティアしていますが、声をかけられたからやるのではなく、自分からやることができたので、主体的に取り組む事をもっと増やしたいです。
Mさん:今世の中には、児童養護施設のイメージが悪く捉えられるような映画やドラマなどが社会に多いと感じますが、そうでない面もあると思います。そのように映らない、プラスの面も含めた作品作りをすることは自分の経験を活かすことができると思っています。
色々な社会問題の真実を発信していきたい。私自身の一度しかない人生をどう生きるか、というところを大切にしつつ、発信した方が子供達にとっても良いと思うので、自分のやりたいこと、楽しいことを大事にしつつ、活動が出来たら良いです。
Oさん:「ないもの」ではなく「あるもの」を大切にしていきたいです。
里親さんの元に暮らしてきたからこそ、関われた人もいますし、ビヨンドトゥモローにも出合えた。今「あるもの」をこれからも大切にしていきたいです。
れいかさん:今日は沢山メモを取らせてもらいました。出会った一人ひとりのことを忘れたくないので、このメモをファイリングして大切に保管させてもらいますね。自分が辛くなった時、みんなと話したこのメモが、私の心の支えになることがあると思うので。今日は勇気づけられる良い機会になりました。
正直、この社会的養護のことをずっと考えると、辛くなることもあります。
結局救えない人はいるし、その不甲斐なさを感じながらも、今自分ができること、好きな事を掛け算しながら今も活動しています。私はコーチングに出合った時に自分の20代をどう過ごしたいか考えました。そして、20代は挑戦したいと決めました。今はまだ20代なので、20代後半は前半とは違うし、周囲が持つ自分のイメージなども作られてくる気がします。それでも色々チャレンジして、お金にならない事でもやってみたいと思っています。自分の楽しみや気持ちの部分を大事に活動していきたいと思っています。
こういう社会を創りたい、という具体的なところはまだ見えていませんが、この社会的養護についてのことをもっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちを大事に活動していきたいと思っています。本日はありがとうございました。
全員:ありがとうございました!