児童養護施設での暮らし―子どもたちの声から見えてきたこと
1 児童養護施設って?
児童養護施設とは、保護者のいない児童や虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童が安全に暮らせる「生活」を保障するための施設です。保護を必要とする概ね2歳~18歳の子どもが生活しています。
また、退所した者に対する相談や自立のための援助を行うことも目的とします。(児童福祉法41条)
(令和3年度「福祉行政報告例」より)
ビヨンドトゥモローは、児童養護施設に暮らす高校生・暮らしていた大学生等を支援しています
2 児童養護施設の「動き」
近年、児童養護施設は、子どもたちの周囲と差のない「あたりまえの生活」を保障するために、小規模化・地域分散化が推進されています。
これは、児童養護施設の施設経営を縮小するわけではなく、その機能を地域分散化して地域支援へと拡大させ、施設の役割を大きく発展させていくものです。
将来的には、児童養護施設内の本体施設・小規模化したグループホーム・里親等の割合を3分の1ずつにしていく目標が掲げられています。
1つの施設内で小規模グループを複数設けるなど、社会的な養護を必要とする子どもたちに対して、より「大人が寄り添い続けられる空間」を作ることが目指されています。
また、これまで原則18歳には施設を退所しなければならなかったところ、2024年4月に年齢制限が撤廃されました。
子どもが18歳で施設を退所した後、頼れる大人がいないことによって社会で孤立してしまったり生活苦に陥ってしまったりする問題を救う方法の一つとなります。
子どもたちが成長して社会に出た後、いかに支えることができるかが、課題とされています。
3 児童養護施設での生活
家庭によって生活スタイルが違うように、施設によってその建物の構造や定員、生活スタイルは様々で、1つの括りとして「施設の暮らしはこう」と言い切ることはできません。
しかし、児童養護施設での生活についての認知度や理解度は世間一般において低く、「どのような暮らしをしているのか」を知る機会はそう多くありません。
そこで、児童養護施設での暮らしを多くの人にイメージしていただけるよう、あくまで一例ではありますが、実際に児童養護施設での暮らしを経験しているビヨンドトゥモローの参加学生にインタビューをしました。
Q.部屋ってどんな感じなの?
Sさん:暮らしている子どもは全体で20人ほどいましたが、4,5人くらいの小規模ホームが4つほどありました。ほとんどは2人部屋で、年に1度部屋替えがあり職員さんが相性のいい人同士や生活時間が似たような人同士に振り分けていました。
Kくん:暮らしている子どもは30人ほどで、男子棟・女子棟が分かれていて、同じ構造の建物が複数あります。各棟の中で6人ごとにユニットが分かれていて、ユニットごとに1階は広いリビング、2階に個別の部屋があります。
プライバシーはしっかり守られていますね。清掃などは職員さんが細かに行ってくれます。
Q.1日のごはんは?
Sさん:基本は席と時間帯が決まっていて、みんなでそろって食べていました。
メニューは、管理栄養士の方が寄付等で頂いた食材などを元に考えていて、食べたいものを言うと翌月のメニューに入っていたりしました。誕生日の人がいるときは、その人の食べたいものを何でも作ってくれていました。
行事の日には季節に合わせたメニューが出ていて、ハロウィンの日に、白玉でできた目玉や林檎でできた口などの料理が出てきたのがとても面白くて印象に残っています…!
Q.欲しいものがあるときってどうするの?
Kくん:年齢によってお小遣いがもらえたり、それぞれに使える「おやつ代」「洋服代」「小説代」などが割り当てられたりしているので、その中から買います。各部屋につく職員さんが管理してくれていて、一緒に買いに行ってもらうこともあります!
誕生日やクリスマスにも、お小遣いやプレゼントがもらえるし、欲しいものを我慢するということはあまりない気がします。
Q.習い事や部活動はできるの?
Kくん:自由にできます。施設長と話をして決定しますが、「やってみな!」と基本なんでも応援してくれます。
僕も中学生からずっと部活を続けていて、お金や送迎が必要だった部分についても施設が協力してくれました。何もストレスなく続けることができて、感謝しています。
施設の中で、部活や習い事をしている人は結構たくさんいますね。
Q.学習面で困ったことはなかった?塾にも通えるの?
Sさん:同部屋の子の就寝時間が早かったため、ライトをつけて夜に勉強したい場合は共同スペースの広間を使わなくてはならず、「一人で静かに集中する」ということは難しかったです。
施設としては学習塾に通うことはできたと思いますが、進学費用のためのアルバイトの時間もありあきらめていました。
Kくん:教材など必要なものは基本的に買ってもらえます。また、塾を経営しているご夫婦が学習ボランティアとして施設の子どもたちをサポートしてくれています。受験生である僕も現在お世話になっています。
Q.施設での思い出や印象に残っていることを聞かせて!
Sさん:家事全般を職員さんがやってくれるので、何もしなくても生活ができてしまうことに喜びを感じたのが一番の印象に残っていることです。ほかにも、四季折々の行事を体験したり、地域の方からリンゴ狩りやいちご狩りに招待していただいて施設の人たちと訪問できたりしたことが楽しかったです。
あと、終電で寝過ごしてしまい職員さんに迎えに来ていただくことが何度かあったんですが、それが家族のようでうれしかったです。
Kくん:一時保護所から施設に移動したばかりのとき、精神的にすごく不安定で、よく泣き叫んで、担当の職員さんを困らせてしまっていました。けれど、その職員さんが、親身に話を聞いてくれて、長い時間自分と向き合ってくれて、僕のわがままにも何一つ嫌だと言わず付き合ってくれました。
その職員さんがいなければ、今の自分はいないと思うので、そのことは忘れられないです。感謝しています。
Q.施設を出てからはどうしているの?
Sさん:私は高校卒業を機に施設を出て一人暮らしをしていますが、施設が寄付で頂けるお米を定期的に送ってくれていますし、担当の職員さんとはたまに連絡を取り合うことがあります。退所した後も施設に遊びに行ったり泊まったりすることが可能で、人によっては結婚式に家族として招待する、自分の子どもを連れて施設に遊びに行く人もいますね。
Q.大学進学は大変じゃなかった?
Sさん:入学金と授業料の準備は大変でした。ほとんどの奨学金は入学後に振り込まれるため入学前に支払うお金の準備は高校在学中に稼がねばならず、私は120万程用意しましたが、アパートの初期費用と入学金、新生活準備費等でほとんど消えてしまいました。今は4つの奨学金をもらっていて、残りの学費や生活費はアルバイトで賄っています。
施設の方からの支援もあって今は大学に通えていますが、それがなければ進学を諦めざるを得なかったと思います。
Q.施設での暮らしって、どう?
Sさん:ただ生きているだけでよく、頼れる人がいて、とても生きやすかったです。
私の生活リズムに合わせて職員さんが食事を用意してくれるなど、職員さんの理解にとても助けられました。
自由に生活させていただけて、進学費用も支援してくれて、感謝しかありません。
Kくん:施設での暮らしは、率直に楽しいです。
常に集団で生活しているので、人に気を遣い続けるのは難しいし疲れてしまうこともありますが、集団生活や人への配慮を早く学ぶことができるのは良いことかなと思います。
家にいたときと比べたら何十倍も幸せだし、来てよかったなと思っています。
4 伝えたいこと
インタビューの最後に、「このコラムを読んでくださっている方々に伝えたいことはありますか」と聞いたところ、2人からは、次のような言葉が返ってきました。
Sさん:施設に入る前に児童相談所の方から施設での生活を聞いたとき、私の口から最初に出た言葉は「幸せそう」でした。家族のもとにいて生活することが誰しもにとっての幸せではないことを知ってほしいです。
Kくん:「施設の子」というレッテルを貼ったり、「施設の子だから」と決めつけたりするのは違うと思います。だからといって、「施設の子なんだ、頑張ったね」という同情も逆に悲しいです。ここで生活している子どもたちは、過去に辛いことがあったのは事実です。ですが、家で暮らしているみんなと何も変わらない、今を頑張って生きている子どもです。
あと、僕の施設に限らずですが、児童養護施設の職員さんが少ないのが日本全国で問題視されていて、職員さんの人数が増えれば、施設にいる子どもの暮らしも豊かになるのにな…と思っています。児童養護施設のことを知る人が増え、そして職員になろうと思ってくださるきっかけが生まれたら嬉しいです!
5 おわりに
児童養護施設は、上述したような様々な動きによって、社会的養護を必要とする子どもたちが安心して暮らすことのできる場所になっています。
施設に暮らしていることは、決して彼らのネガティブな要素になるものではありません。
一方で、児童養護施設出身者の大学進学率は約20%*と低く、進学をするとしても、費用を自分の力で用意しなければならないなど、いくつもの壁が生じる場合もあります。*令和6年2月 こども家庭庁支援局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」
家や施設、里親家庭…
暮らす場所がどこであっても、子どもたちの未来は明るいものであってほしい、希望を抱き続けられる社会であってほしい—
そんな思いから、ビヨンドトゥモローは、児童養護施設に暮らす高校生・大学生を支援の対象としています。
住む場所や環境に関わりなく、すべての若者の希望を守ることのできる社会が実現するよう、私たちは切に願い、活動していきます。
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